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福岡地方裁判所 昭和57年(ワ)861号 判決

原告 亡西原隆一訴訟承継人 谷川隆

〈ほか五名〉

原告ら訴訟代理人弁護士 吉田徹二

被告 吉浦嘉久

右訴訟代理人弁護士 井上庸夫

右訴訟復代理人弁護士 鬼丸義生

主文

一  被告は、原告谷川隆、同常岡和親、同江川猛、同徳丸儀平及び同古川周一に対し各金五三万〇八四〇円、原告徳丸善和に対し金一〇六万一六八〇円を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

四  本判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告谷川隆、同常岡和親、同江川猛、同徳丸儀平及び同古川周一に対し各金一一七万七三二〇円、原告徳丸善和に対し金二三五万四六四〇円を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  当事者

訴外亡西原隆一、同常岡改三、原告江川猛、訴外亡徳丸博、原告徳丸儀平及び同古川周一は、昭和四七年以前から訴外株式会社老松座(以下「老松座」という)の株主で、その保有株式は徳丸博が二〇株、その余の者が各一〇株であったが、西原隆一は昭和五八年七月一〇日死亡し、右一〇株の株主たる地位を原告谷川隆が相続により承継取得し、常岡改三は昭和六〇年三月三一日死亡し、右一〇株の株主たる地位を原告常岡和親が相続により承継取得し、徳丸博は昭和六一年一一月一九日死亡し、右二〇株の株主たる地位を原告徳丸善和が相続により承継取得した。被告は昭和四一年四月から老松座の代表取締役に就任している。

2  老松座の沿革

(一) 老松座は、昭和五年一〇月二日劇場及び付属品の賞与等を目的とし、資本金二万五〇〇〇円、一株の金額五〇円、発行済株式総数五〇〇株で設立された株式会社である。

(二) 老松座は、設立直後の同年一一月一五日頃、福岡県糸島郡前原町大字前原一二〇四番二及び同所二九一番七の二筆の宅地合計一〇三六・〇一平方メートル(以下「本件土地」という)を劇場敷地として購入し、その地上に「老松座」と称する劇場を建てた。

(三) 昭和三一年頃、右劇場は火災により消失したが、間もなく老松座が右建物の火災保険金三五〇万円、訴外池田一三が一〇〇万円をそれぞれ拠出して再築され、老松座と池田との間で、再築後の劇場の使用について左記の合意がなされた。

(1) 老松座は、右建物を昭和三一年七月一日から昭和六五年六月三〇日まで池田に貸与する。

(2) 右期間中の建物の修理費用及び公租公課その他一切の費用は、池田において負担する。

(四) 池田は、他の数名と共同して、右以前の昭和三〇年一月五日映画興業等を目的とする有限会社太陽映画劇場(以下「太陽映画」という)を設立し、右建物で映画興業を行なっていたが、昭和三二年八月頃被告にその営業を譲渡した。その結果、被告は、池田らから同人ら保有の太陽映画の持分の全部及び老松座の株式を譲り受けるとともに、太陽映画の代表取締役及び老松座の取締役に就任した。

そして、右営業譲渡に伴い、同年八月一日、老松座(代表取締役波多江雅雄)と太陽映画との間で、劇場の使用につき改めて左記の合意がなされた。

(1) 老松座は、右建物を昭和三二年八月一日から昭和六五年六月三〇日まで太陽映画に貸与する。

(2) 太陽映画は、右期間中の建物の修理費用及び老松座の役員の報酬、租税公課等同社において要する費用のすべてを負担する。

(五) 以上のとおり、老松座は、後記昭和四七年までは劇場の貸与以外の事業を行ったことがなく、また従業員も存在したことがない。

3  被告の老松座支配の強化及び会社財産の私物化

(一) 被告は、昭和四一年以降、老松座の発行済株式総数五〇〇株のうち実質的に三七七株を取得し、昭和四一年四月六日老松座の代表取締役に就任し、以後その親族を取締役等の役員に就任せしめるなどして、老松座の実権を掌握することに努め、昭和四六年八月以後、老松座の役員はすべて被告とその親族で占めるに至った。

(二) 被告は、昭和四一年七月太陽映画の目的を変更し、昭和四二年五月その商号を有限会社太陽興産(以下「太陽興産」という)に変更したうえ、その直後頃から、太陽興産の名義で劇場建物の一部をマーケットとして他に賃貸するようになった。

そして、昭和四五年頃から右建物での映画興業をやめ、同建物を取り壊し、その跡地に貸店舗ビルを建築することを計画した被告は、昭和四六年五月一〇日太陽興産の代表取締役を辞任して、その後任に同人の妻吉浦マサエを就任させたうえ、昭和四七年二月一四日の老松座取締役会において、本件土地を太陽興産に対し右ビル用地として賃貸することについての承認手続を経て、同年六月頃、老松座が本件土地を年額一〇八万円の賃料で太陽興産に賃貸する旨の契約(以下「本件賃貸借契約」という)を締結した。

(三) 太陽興産は同年一一月頃、本件土地上に鉄筋コンクリート陸屋根造三階建店舗ビル(一階九〇七・三八平方メートル、二階八六八・八一平方メートル、三階一七四・六四平方メートル)を建築し、これをスーパーマーケット等に賃貸している。

4  被告の任務懈怠

(一) 本件土地は、前原町の中心的商店街である国道沿いに位置し、その適正賃料は昭和四七年当時年額五八三万円を下らないから、前記年額一〇八万円の賃料は極めて低額である。右賃料は、その後昭和四九年六月から年額一三二万円に、昭和五一年六月から同一五四万円に、昭和五三年六月から同一五六万円にそれぞれ増額されてはいるが、右賃料額は、老松座の役員報酬、公租公課及び雑費等その全支出費用とほぼ同額であって、株主に対する利益配当の余地はない。

(二) 本件土地の価額が昭和四七年以後現在まで著しく上昇していることは顕著な事実であるが、被告は、右のとおり、極めて安い賃料で自らが事実上経営する太陽興産に本件土地を使用させ、またその状態を改善することなく長年にわたり放置している。かかる公私混同による会社財産の利用は、老松座の代表取締役に課せられた忠実義務に反するものであり、また、被告はそのことを十分承知しているといわなければならないから、商法二六六条の三第一項に基づき、右任務懈怠により原告ら(その前主を含む)が被った後記損害を賠償すべき義務がある。

(三) 仮に、本件につき商法二六六条の三第一項の適用がないとしても、被告は右の任務懈怠により原告ら(その前主を含む)が後記損害を破ることを予見し得たのであるから、民法七〇九条により右損害を賠償すべき義務がある。

5  原告ら(その前主を含む)の損害

(一) 昭和四七年以来、老松座は本件土地の所有管理のみをその業務内容としていたのであるから、本件土地が適正賃料で賃貸された場合には、株主に対する配当が可能であったことは確実である。しかるに、代表取締役たる被告が本件土地を事実上私物化し、太陽興産に不当に安い賃料で賃貸し続けているため、株主は何らの配当も受けることなく経過している。従って、右適正賃料で賃貸した場合における配当受領可能金額が、被告の前記任務懈怠により原告ら(その前主を含む)の被った損害となる。

(二) 本件土地の適正賃料額は左記のとおりである。

(1) 昭和四七年一一月 年額五八三万二〇〇〇円

(2) 昭和五〇年一一月 年額七五八万四〇〇〇円

(3) 昭和五三年一一月 年額九〇九万六〇〇〇円

(4) 昭和五五年一一月 年額一〇〇〇万八〇〇〇円

(三) 老松座の営業年度は当年六月一日から翌年五月三一日までであるが、右適正賃料に見合う収入があった場合における老松座の昭和四七年度から五五年度までの間における配当可能金額は左記のとおりである。

(1) 昭和四七年度 二八七万四四二九円

(2) 昭和四八年度 二七三万〇二七四円

(3) 昭和四九年度 二六二万六〇一一円

(4) 昭和五〇年度 三六三万〇四三七円

(5) 昭和五一年度 三六一万五九七三円

(6) 昭和五二年度 三五七万五七三〇円

(7) 昭和五三年度 四三一万二一七三円

(8) 昭和五四年度 四三一万〇八三九円

(9) 昭和五五年度 四六四万八二三三円

そして、昭和五六年度以降の老松座の支出は、本件土地の固定資産税の増額分以外さしたる変化がないことからして、昭和五六年度から六一年度までの間における各年度の配当可能金額は、その間の賃料増額分を考えて、それ以前の昭和五三年度から五五年度までの三年間の平均配当可能金額四四二万三七四八円を下ることはない。

以上の計算により、昭和四七年度から六一年度までの配当可能金額は合計五八八六万六五八七円となるところ、老松座の発行済株式総数は五〇〇株であるから、一株当たりの配当可能金額は一一万七七三二円を下らない。

(四) 原告谷川隆、同常岡和親及び同徳丸善和は、前記相続により、それぞれ被相続人が生前被告に対し取得した配当可能金額相当の損害賠償請求権を承継取得した。

6  本訴請求

よって、被告に対し、原告徳丸善和を除くその余の原告らは各一〇株分の損害一一七万七三二〇円、原告徳丸善和は二〇株分の損害二三五万四六四〇円の各賠償金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実は認める。但し、(三)及び(四)の各劇場貸与契約には、賃借人において老松座の株主に対し、劇場の招待券を一株につき一か月一枚を一〇株単位として配布する旨の特約がなされており、右株主に対する利益配当なるものは全く考えられておらず、株主も全員これを承認していた。

3  請求原因3の事実は、被告が老松座支配を強化し会社財産を私物化しているとの主張を除き認める。本件賃貸借契約を締結するについては、老松座株主総会の承認も得ており、その内容は請求原因2(三)、(四)の各劇場貸与契約を実質的に承継しており、昭和六五年六月三〇日まで存続するものである。

4  請求原因4の事実は否認する。本件賃貸借契約の特殊事情からして、賃借人としては、昭和六五年六月三〇日までは老松座役員の報酬、公租公課及び総会費相当の賃料を負担すれば足りるものであり、従って、右期限までは老松座の株主には右賃料からの配当はないといわなければならない。

5  請求原因5の事実は否認する。老松座は現在まで株主に対し利益配当をしてきた。

三  被告の主張

原告らの主張によれば、本件は原告らの間接損害の賠償を求める事案であり、老松座が被告から損害を回復すれば株主たる原告らの損害も回復されることになるから、かかる事案は代表訴訟によって解決すべきであり、原告ら各自に独立の損害賠償請求権を認める必要はない。

けだし、原告らの主張に従って被告が株主たる原告らに損害の賠償をしても、老松座の被告に対する損害賠償請求権は消滅しないから、被告は、原告らと老松座とに対し二重に責任を負うことになり、また、仮に原告らに賠償することによって被告の老松座に対する責任がその分だけ消滅するとすれば、原告らは、取締役に対する責任を商法二六六条の三第一項によって追及することにより、会社の取締役に対する損害賠償請求権を自己のために取得するという不当な結果となるからである。

四  原告らの反論

確かに、本件においても、理論的には、原告らが代表訴訟により前記損害を回復する可能性はなくもない。

しかしながら、それは老松座の前記沿革及び実体並びに被告の行為を全く考慮しない場合においてはじめていい得ることであって、右事情を前提とする限り、実現性に乏しく、原告ら少数株主を真に保護することはできない。

けだし、被告に対し原告らが代表訴訟によって責任を追及したとしても、被告は、老松座の発行済株式総数の三分の二を超える株式を保有し会社を支配していることを拠り所として、原告ら少数株主が利益を享受するについては、あらゆる方策を用いてそれを妨げるであろうことは容易に予測し得るところであり、かくては代表訴訟による損害の回復は画餅に帰し、到底本件訴訟におけると同様の結果を得ることができないことは明らかだからである。

第三証拠《省略》

理由

一  先ず、本件は商法二六七条の代表訴訟によるべきであり、同法二六六条の三第一項に基づく請求は認められないとの被告の主張について検討する。

原告らの主張によれば、老松座が被告の任務懈怠により得べかりし賃料収入相当の損害を被り、ひいては株主たる原告らも該賃料収入から算出される配当受領可能額相当の損害を受けたというものであるから、老松座が被告から右損害を回復すれば株主たる原告らの損害も回復される関係にあることは明らかであり、かかる事案の解決のために右の代表訴訟が一般論として有効であることは否定できない。

しかしながら、後に認定するような老松座の沿革及び実体並びに被告の行為を考慮すれば、原告らが被告に対し代表訴訟によって右責任を追及したとしても、老松座の大株主で代表取締役でもある被告は、原告ら少数株主が右損害を現実に回復するについて、あらゆる方策を用いてそれを妨げるであろうことは容易に予測し得るところであるから、右の代表訴訟によって、商法二六六条の三第一項に基づく本件訴訟と同様の結果を期待できるとはいい難い。

また、原告ら株主と老松座がそれぞれ被告に対して有する損害賠償請求権の関係については、前記損害の性質に徴し、不真正連帯債権と解して差し支えない。

以上の理由により被告の前記主張は採用することができない。

二  そこで、請求原因について検討する。

1  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、請求原因2(三)及び(四)の各劇場賃与契約には、賃借人において老松座の株主に対し、劇場又は映画館の招待券を一株につき一か月一枚を一〇株単位として配布する旨の特約がなされており、その他に老松座の株主に対する配当なるものは全く考えられておらず、株主も全員これを承認していたことが認められる。

2  請求原因3、4の事実について判断する。

(一)  左記の事実は当事者間に争いがない。

(1) 被告は、昭和四一年以降、老松座の発行済株式総数五〇〇株のうち実質的に三七七株を取得し、昭和四一年四月六日老松座の代表取締役に就任し、昭和四六年八月以降、老松座の役員はすべて被告とその親族で占めるに至った。

(2) 被告は、昭和四一年七月太陽映画の目的を変更し、昭和四二年五月その商号を有限会社太陽興産(以下「太陽興産」という)に変更したが、昭和四五年頃から前記劇場での映画興業をやめ、同建物を取り壊し、その跡地(本件土地)に貸店舗ビルを建築することを計画し始めた。かくするうち、昭和四六年五月一〇日太陽興産の代表取締役が被告から同人の妻吉浦マサエに変わった。

(3) 昭和四七年二月一四日の老松座取締役会において、本件土地を太陽興産に貸店舗ビル用地として賃貸することについての承認手続を経て、老松座(代表取締役被告)と太陽興産(代表取締役吉浦マサエ)との間で、老松座が本件土地を年間一〇八万円の賃料で太陽興産に賃貸する旨の本件賃貸借契約が締結された。

(4) 太陽興産は同年一一月頃、本件土地上に鉄筋コンクリート陸屋根三階建店舗ビル(一階九〇七・三八平方メートル、二階八六八・八一平方メートル、三階一七四・六四平方メートル)を建築し、これをスーパーマーケット等に賃貸している。

(二)  《証拠省略》によれば、老松座の営業年度は当年六月一日から翌年五月三一日までであるところ、本件賃貸借契約の賃料は、昭和四七、四八年度が年額一〇八万円であったものが、昭和四九年から五一年度までが年額一三二万円、昭和五二年度が年額一五四万円、昭和五三年から五八年度までが年額一五六万円、昭和五九年度が年額一六六万円、昭和六〇年度が年額一八〇万円と順次改定されてきたが、右賃料額は、老松座の役員報酬、公租公課及び雑費等その全支出費用とほぼ同額であって、他に格別の収入のない老松座においては、株主が右賃料収入から利益配当を受ける余地はなかったことが認められる。

他方、《証拠省略》により認められる本件土地上の貸店舗ビルの昭和五六年頃の賃料が月額一八〇万円(年額二一六〇万円)である事実を総合すれば、本件土地の適正賃料は、昭和四七年一一月当時年額五八三万二〇〇〇円、昭和五〇年一一月当時年額七五八万四〇〇〇円、昭和五三年一一月当時年額九〇九万六〇〇〇円、昭和五五年一一月当時年額一〇〇〇万八〇〇〇円と認めるのが相当であるから、本件賃貸借契約による前記賃料は極めて安いといわざるを得ない。

ところで、《証拠省略》によれば、被告は、本件賃貸借契約の締結にあたり老松座の株主らに対し、従前の請求原因2(三)及び(四)の各劇場貸与契約に基づき賃借人から右株主に配布されていた招待券については、以後被告個人で経営する日之出映画劇場の招待券をもって従前どおり配布することにする旨説明し右株主においても、右招待券の配布を受けられれば、本件賃貸借契約の賃料から格別利益配当を受けなくてもよいとして右説明を諒承し、その後もこれにつき格別異議の申出等はなかったこと、被告は、右約束に基づき、昭和五五年八月まで右招待券の配布を続けたが、その頃日之出映画劇場の閉鎖を余儀なくされ以後右配布をしなくなったため、原告ら株主から批判の声が出るようになったこと、しかるに被告は、前記のとおり極めて安い賃料で自らが事実上経営する太陽興産に本件土地を使用させ、その状態を株主に有利に改善する努力をせず長年にわたり放置していることが認められる。

(三)  以上の事実によれば、被告が老松座の代表取締役として、太陽興産に対し、本件土地を当初極めて安い賃料で賃貸した行為についてはもとより、その後昭和五五年度まで前記のような賃料の改定しか行なわなかった点についても、いまだ会社の代表取締役に課せられた忠実義務違反があるとまではいうことはできないが、昭和五六年度以降招待券の配布をせず、原告ら株主からの批判の声を無視し、自らが事実上経営する太陽興産に対し、適正な賃料増額を要求せず、株主に対する利益配当が可能な状態への努力を怠ってきた点については、反証のない以上、少なくとも重過失による忠実義務違反があるといわなければならないから、被告は、商法二六六条の三第一項に基づき、右義務違反により原告ら(その前主を含む)が被った損害を賠償すべき義務がある。

3  請求原因5の事実について判断する。

(一)  以上認定の事実を総合すれば、老松座が本件土地を太陽興産に対し前記適正賃料で賃貸した場合における配当受領可能金額が、被告の前記義務違反により原告ら(その前主を含む)の被った損害となるものと認めるのが相当である。

(二)  ところで、老松座の昭和五六年度以降の配当可能金額について正確な額を証明する資料はないが、《証拠省略》によれば、本件土地の公租公課は昭和五三年度から六〇年度までに約一・五倍増加しているものの、その間における老松座のその余の支出にはさしたる変化がないことが認められるところ、近時における前原町附近の地価高騰の公知の事実に、右公租公課の上昇等に伴い本件土地の適正賃料額も当然増額されるべきことを考え合わせると、昭和五六年度以降の各年度における配当可能金額は、それ以前の昭和五三年度から五五年度までの三年間の平均配当可能金額を下ることはないと認められる。

そこで、《証拠省略》(この計算結果報告書は、本件土地につき前記認定の適正賃料収入がある場合を前提とするものであることが弁論の全趣旨により認められる)により右三年間の平均配当可能金額を算出すると年間四四二万三七四八円となるので、昭和五六年度から六一年度まで六年間の配当可能金額は二六五四万二四八八円となるところ、老松座の発行済株式総数は五〇〇株であるから、一株当りの配当可能金額は五万三〇八四円となる。

(三)  そうすると、原告ら(その前主を含む)は被告に対し、昭和六二年五月三一日までに一株当り五万三〇八四円の損害賠償請求権を取得したものというべきところ、弁論の全趣旨によれば、原告谷川隆、同常岡和親及び徳丸善和については、前記相続により、それぞれ被相続人が生前被告に対し取得した右損害賠償請求権を承継取得したことが認められる。

三  以上の理由により、被告は、原告徳丸善和を除くその余の原告らに対し各一〇株分の損害五三万〇八四〇円、原告徳丸善和に対し二〇株分の損害一〇六万一六八〇円の各賠償金を支払うべき義務があるので、原告らの本訴各請求を右の限度で正当として認容し、その余を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷水央)

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